社会保険労務士 西尾 隆 (西尾隆社会保険労務士事務所)
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病気やケガ、障害を抱えている方が受給できる障害年金と、私傷病が原因で会社を休んでいる期間に受給できる健康保険の傷病手当金との調整について解説いたします。
同一傷病で障害厚生年金を受給している人は、傷病手当金と重複して受給することはできません。ただし、同一傷病でない場合は調整されずに両方受け取ることができます。
傷病手当金は、病気やケガで会社を休んでいるときに、その期間の生活の所得保障として設けられた制度です。法人の役員、従業員など健康保険に加入している被保険者が病気やケガのために労務不能な状態になったときに、支給開始日から 1 年 6 か月の期間を限度に支給される制度です。
受給できる金額は簡潔にいうと、日当の 3 分の 2 の金額が傷病手当金として受け取ること
ができます。
しかし、同一傷病で障害厚生年金を受給できる人は、傷病手当金を受給している間は、重複して受け取ることはできません。
この場合は、障害厚生年金の支給が優先されて、傷病手当金がその期間支給停止になり
ます。
ただし、障害厚生年金の金額(同一の支給事由で障害基礎年金も支給されるときは、その合計額)を 360 で除した金額が、傷病手当金の日額に満たないときは、その差額が支給されます。
一般的には、傷病手当金の受給額のほうが多いです。
たとえば、傷病手当金を月額で 20 万円受け取っていたとします。そして障害年金は障害厚生年金 3 級に該当した場合では、仮に月額約 6 万円とした場合(受給額は各人によって異なります)には、このケースでは、月額 6 万円の障害厚生年金の支給が優先されます。
そして、障害年金との差額である 14 万円を傷病手当金として受給することができます。
しかし、傷病の初診日が国民年金の加入月だったので、現在は障害基礎年金を受給している場合においては、その原因傷病が同一傷病であったとしても支給調整されることはなく、傷病手当金と障害基礎年金の両方を受給することができます。
ただし、障害手当金(一時金)を受給した場合は、傷病手当金の額に達するまでの間、傷病手当金は支給停止になります。
実務上は、先に健康保険制度の傷病手当金を受給しているケースがほとんどです。
そして、後から障害年金の制度を知って、障害年金を請求するケースが多いのですが、数年前に遡って障害年金を障害認定日請求(遡及請求)した場合には、過去に受給した傷病手当金と重複する期間が必ず発生しますので、その重複した期間に受給した傷病手当金は後日返還を求められるという取扱いになっています。
健康保険の傷病手当金については協会健保・健康保険組合と障害年金については日本年金機構・各共済組合とのデータ上のやり取りの中で重複受給が判明しますので、後から傷病手当金の返還請求を受けることになるのです。
あくまでその支給が、重複している期間が生じた場合に調整されるということですので、傷病手当金の受給期間が終了した後に、新たに障害年金を請求して受給するような場合、調整は一切ありません。
おさらいすると、同一傷病で重複期間がある場合
① 障害厚生年金は傷病手当金との調整があります。
② 障害厚生年金 + 障害基礎年金は傷病手当金との調整があります。
③ 障害基礎年金のみの受給だと、傷病手当金との調整はありません。
障害年金と傷病手当金との調整については非常に重要です。
忘れた頃に重複した部分の返還請求が来ますので少し注意が必要です。
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社会保険労務士 西尾隆(にしお・たかし)
うつ病、がん、人工透析、糖尿病、脳梗塞、心疾患などあらゆる病気が障害年金の対象です。障害年金を活用することで、がんなどの病気で働けない従業員への就労支援対策にもなります。病気による離職で優秀な人財を流出させない職場環境の構築といった就労支援対策を提案いたします。
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