これまで中小企業にとっては、M&A(企業や事業の売買)は縁遠いものだったかもしれませんが、後継者のいない経営者にとっての事業承継の手段として M&A が注目され、中小企業にとって M&A は身近なものになってきました。買手企業にとっては売手企業の事業や組織全体を手に入れることができるため、新規事業の進出や事業規模の拡大を効果的に実現する手段としても活用されつつあります。
本稿では、令和 3 年度の税制改正において新たに創設されることとなった「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」の創設の背景と制度概要について紹介いたします。
【制度の背景】
主な M&A の手法としては、事業譲渡(譲受)と株式譲渡(取得)が一般的です。事業譲渡と株式譲渡の特徴を買手の立場から整理すると以下のように要約できます。
株式譲渡の手法をとった場合、投資総額そのものは買手側では子会社株式として計上されますので、対価に「のれん」が含まれていても、通常は事業譲渡のように一定期間で費用計上することができません。また、買収後、対象会社において簿外債務(取引先との訴訟費用や未払残業代、土壌汚染対策費用等)が発覚した場合には、買手側においても負担が新たに発生する可能性もあります。
国が、令和 3 年度の税制改正において、中小企業を対象に「M&A 実施後に発生しうるリスク(簿外債務 等)に備えるため準備金制度を措置」することとしたのは、中小企業による株式譲渡型の M&A リスクを税制面から軽減するよう配慮したものと思われます。
「M&A による規模拡大を通じた中小企業の生産性向上と、増加する廃業に伴う地域の経営資源の散逸の回避の双方を実現する」ため、かかる準備金制度の創設の他、M&A に伴って行われる雇用確保を促す税制、M&A の効果を高める設備投資減税も併せて創設される見込みです。
【制度概要】
今回の改正法案によると、一定の要件を満たす中小企業が、株式譲渡によって M&A を実施する場合に、株式等の取得価額の 70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積立金額を損金算入(費用処理)することとが認められる予定です。
なお、一旦準備金として損金算入(費用処理)が認められた後、5 年の据え置き期間を経て 6 年目以降から 5 年間で分割して準備金を取り崩して益金算入(収益計上)が求められる見込みです。
【主な要件】
令和 3 年 1 月 25 日に財務省が公表した租税特別措置法の改正法案によれば、上記の費用処理が認められるための主な要件は下記のとおりで、すべてを満たす必要があると思われます。
・青色申告を行う法人である中小企業者(株式会社の場合は資本金が 1 億円以下で、資本金 5 億円以上の会社に支配等されていないこと)であること
・改正中小企業等経営強化法の施行の日(現状は未定)から令和 6 年 3 月 31 日までに経営力向上計画の認定を受けること
・当該認定を受けた計画に従って、事業承継として他の法人の株式等を取得し、その株式等の取得価額は 1 社あたり 10 億円以下(超えると対象外)であること
・買手企業は、取得した最初の決算日までその株式を継続して保有すること
・買手企業は、その決算において取得価額の 70%を限度に準備金として費用処理(損金経理)すること
【ご注意】
・本稿は、令和 3 年 1 月 25 日現在の租税特別措置法の改正法案及び経済産業省の税制改正に関する資料を基に作成しております。具体的な取引につきましては、事前に税理士等の専門家にご相談頂くとともに、自社及び経営者ご自身でも要件を十分確認・理解された上で、意思決定、実行いただくようお願いいたします。
執筆者のご紹介
税理士 福岡裕次(ふくおか・ゆうじ)
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