「サブリース問題」、世間を騒がせたこのフレーズ、耳にした方も多いと思います。
近年、法施行や新しい判例、サブリース業者からの減額攻勢の動き等もあり、再注目されています。経営者の皆さまの中にも、資産活用の一つとして、関係されている方もおられるのではないでしょうか。
実務での相談も多いことから、できるだけ分かりやすい言葉で、説明したいと思います。
そもそもサブリースとは、不動産業者がオーナーから物件を一括で借り上げて、エンドユーザー(借主)へ又貸しする仕組みです。
誤解のないよう申し上げると、サブリースの仕組み自体は悪ではありません。
ニュースではアパート経営による問題が取り沙汰されました。実際には住居のみならず、オフィスやホテル等、あらゆる資産にサブリースは活用されますし、非常に有用な仕組みと言えます。
オーナーの主たるメリットとしては、以下の通り。
・プロに物件や借主の管理、テナント募集をしてもらえ、手間が省ける
・賃料が保証されて空室リスクを避けられる
以前は、サブリースに対する法規制が不十分なこともあり、オーナーに十分な説明がないままサブリース業者に有利な契約が結ばれているケースが多くありました。
契約から10年程度経つと、以下のような問題がオーナー側から噴出したのです。
・借り手がつかないから募集賃料を下げる。よって、一括借り上げ賃料も減額させてもらうと一方的に言われたが、これでは銀行ローンの返済が払えない。
・一括借り上げ契約を解除されるの?30年間借り上げ保証してくれるはずじゃないの?
・郊外で借り手がつきにくい物件を、いきなり自分たちで管理しろと言われても無理だ。
・契約時には、すぐに借り換えによって返済が楽になると言われていたが、反応がない。
こういった状態の是正を目的に、2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(いわゆるサブリース新法)」が交付され、同年12月に施行されることとなりました。
サブリース新法では新たに、同法で規制される対象が明確化され、下記事項が明文化される等、オーナーへの告知義務が強化されました。
①誇大広告の禁止
②不当な勧誘の禁止
③重要事項説明の義務化
要するに、今までサブリースのリスクについて、ちゃんとオーナーが理解できてなかったので、サブリース業者は不動産のプロなんだし、しっかり説明を尽くして契約しないとダメですよ、というわけです。
しかし、ここにきて実務では弊害も出てきているように思えます。
つまり、サブリース新法ができる以前は、オーナーとサブリース業者のうち、どちらが弱者かと言えば、もちろんオーナー側であり、守るべき立場として保護されてきた面もありました。
一方、法施行後はサブリース新法を、まるでサブリース業者の立場を正式に認めた御旗のように利用し、オーナー説得の材料とするサブリース業者もいるようです。
突然、「入居率がこれだけ低下しており、エンドテナントからはこれだけしか賃料収入を得ていません。サブリース新法によると、周辺相場賃料で賃料を決定すべきと定められているので・・・、これだけ周辺相場が下がっているのですから、来月から3割減でお願いします。」と言われ、しぶしぶハンコを押すオーナーもおられるようです。
提示された周辺賃料相場だけで、本当にいきなり賃料を3割減額していいのですか?
上記の周辺相場賃料とは、まさに今新たに契約して借りたらいくらになるの?(新規賃料と言います!)を指します。一方、今までの賃貸借契約が継続している場合において、今までの経緯を踏まえて改定したらいくらになるの?(継続賃料と言います!)とは、そもそも賃料の概念が異なります。
繰り返しますが、サブリース新法は、サブリース業者の告知義務を厳しくし、オーナー側の誤解を招かないように説明を尽くすこと、取引の安定性を軸に制定されたものと考えます。一方で、これからはオーナー側も最低限の不動産リスクに関する勉強は必要となりますし、そのような知識がないままに不動産投資をすることはお勧めできません。
そもそも改定賃料ってどう考えるのでしょうか?
簡単に言うと、こうです。
「現在の賃料を決めたあの時・・・、どういう事情を重視して賃料を決めたのか。
あの時から現在を比べて、その事情に変更はあるのだろうか。」
もちろん、「契約するときの賃料なんか、相手さんが勝手に決めた賃料に判を押しただけや。」と言われる方もおられます。
ここで大切なのは、「現在の周辺賃料相場」ではなく、「現在の賃料を決めたあの時」からスタートしてみるということです。
例えば、税金は?周辺地価は?景気は?あの時から上がっているのか下がっているのか。
そういえばあの時は、会社の経営状況が悪化していたから、経営状況の事情を一番重視してお互いに賃料を決めたのじゃなかったかな?
突然の賃料改定を迫られた時、
「そうは言いますけど、継続関係にある場合の賃料(継続賃料)と、周辺相場賃料(新規賃料)って意味が違うって聞きました。詳しい人に相談したいので、検討させてください。」
まずは、このフレーズをしっかり伝えてください。
契約をするときに、最初からしっかりリスクを認識することがベストなのは当然です。
ただし、当初の事業計画が望む方向に進まない状況が出てくることもありますし、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。
そういう時は、事態の更なる悪化を防ぐためにも、専門家への相談をお勧めします。
私が所属する「こうべ企業の窓口」は、30名超の士業の専門家集団です。
リアルやZOOMでの無料相談も常に実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
執筆者ご紹介
不動産鑑定士 谷詰岳史(たにづめ・たけし)
①小売店で年額賃料総額1億円の減額実績あり。立退き料の算定、新規地代設定も可能。②大型商業施設、工場財団のほかホテル、ゴルフ場、サービス付高齢者住宅等のオペレーショナルアセットの評価実績も豊富。③借地権・底地・隣地併合・分割に伴う評価実績も豊富。どんな物件でも評価いたします。
- 地代・家賃の増減額交渉、立退き交渉に伴う評価
- 特殊案件の評価
- 複雑な権利関係の評価
かもめの不動産鑑定株式会社
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