ウクライナ紛争、原油高、円安等の要因により物価が上昇し、利益が減ったなぁと感じられている経営者の方も多いかと思います。 あらためて利益とは何かと考えてみますと、次の式でシンプルに表すことができます。
利益=売上-原価
式から分かるように、利益を増やすには売上増加か原価削減しかなさそうです。 もう少し分解すると、売上、原価とも単価×数量に分解でき、利益を増やすための打ち手は次の4つがありそうです。
単価 | 数量 | |
売上 | 販売価格を上げる | 販売数量を伸ばす |
原価 | 原価(単価)を下げる | 材料、人材等の投入量を削減する |
「販売価格を上げる」には、需給状況、得意先との関係性など乗り越えるべきハードルが高く、販売価格を上げられたとしても販売数量を減らすことになるかも知れません。また「販売数量を伸ばす」には、売れるための仕掛けづくりや広報などマーケティングの知識が必要ですし、市況によってはせっかくの取組みが空振りに終わる可能性もあります。 売上増加の取組みは、自社ではコントロールできない外部の要因によって、効果が左右されると言えます。
一方、「原価(単価)を下げる」には材料の見直し、「投入量を削減する」には生産方法の見直しなど、原価を減らすための取組みは、社内で実現できるものも多くあります。 そこで今回は、売上よりも手をつけやすい原価のほうを検討したいと思います。原価を見直すには、まず原価を計算してみることが大切です。
では、そもそも原価とは何でしょうか。そして、原価はどうやって計算すればよいでしょうか。昔々、大蔵省の企業会計審議会(現在は金融庁内)が定めた「原価計算基準」というものがありますので、それを参考に考えてみたいと思います。少し言葉遣いが堅苦しいので、飲食店を例として噛み砕いて解説したいと思います。そのため、厳密さに欠ける点ご容赦ください。
原価は、材料とか消耗品とか価値あるモノの消費を言います。またモノだけでなく、労働や運送など受けたサービスも含みます。ただし、消費されたら全て原価ということではなく、経営に関連した消費に限られます。例えば、お客様に提供した料理に使われた食材は原価ですが、余った食材を持ち帰って晩御飯にすると原価ではありません。また、火災で食材が燃えてしまったなど異常な状態での消費も原価には含まれません。
まとめると、経営に関連があり、通常の状態で消費されたモノやサービスは原価と考えてよさそうです。
つぎに原価の計算はどうすればよいでしょうか。まずは、材料費、人件費、経費のように費目別に集計します。会計帳簿がある方は、関連する勘定科目から金額を集計します。
つぎに、集計した費目をメニュー別に分けていきます。少々骨が折れますが、しっかりやると課題が見えてきます。ここでは簡単のため、メニューはハンバーグ定食、とんかつ定食、エビフライ定食の3つしかないとします。それぞれメインのおかずにごはんとみそ汁(わかめ)がついています。
最初に材料費です。牛ミンチはハンバーグ定食、豚肉はとんかつ定食、エビはエビフライ定食のみに消費され、他の定食では使いませんので、それぞれの定食に集計します。
このように直接的な関係に基づき集計することを直課(ちょっか)といいます。ごはんとみそ汁はすべての定食につきますので、米代、みそ代、わかめ代の合計額を各定食に配分します。これを配賦(はいふ)といいます。配賦するには何らかの基準が要ります。ここでは販売数量を基準に配賦します。
次に労務費です。大将は個人事業主で給料はありませんが、仕込みにバイトを1人雇っています(時給)。仕込みには毎日おおよそ、ハンバーグ定食1時間、とんかつ定食2時間、エビフライ定食3時間がかかっています。そのため、バイトに支払った給料を1:2:3の比で各定食に配賦することにします。
最後に水道光熱費、店舗の家賃などの経費も各定食に配賦します。これも、例えば販売数量を基準に配賦します(決算書においては、家賃は販管費として処理され、原価に含まれていないことが多いですが、ここでは全体でどれだけかかっているか知りたいので原価に含めています)。
(計算例)
6月度(単位:円) | 合計 | ハンバーグ | とんかつ | エビフライ |
販売数量(食) | 1,000 | 100 | 400 | 500 |
【材料費】 | ||||
牛ミンチ | 40,000 | 40,000 | ||
豚肉 | 80,000 | 80,000 | ||
エビ | 75,000 | 75,000 | ||
米、みそ、わかめ | 100,000 | 10,000 | 40,000 | 50,000 |
計 | 295,000 | 50,000 | 120,000 | 125,000 |
【労務費】 | ||||
バイト代 | 150,000 | 25,000 | 50,000 | 75,000 |
【経費】 | ||||
水道光熱費 | 70,000 | 7,000 | 28,000 | 35,000 |
家賃 | 200,000 | 20,000 | 80,000 | 100,000 |
計 | 270,000 | 27,000 | 108,000 | 135,000 |
【合計】 | 715,000 | 102,000 | 278,000 | 335,000 |
1食あたり | 715 | 1,020 | 695 | 670 |
販売価格 | 1,200 | 900 | 800 | |
原価率(%) | 85 | 77 | 84 |
ハンバーグ定食とエビフライ定食の原価率がとんかつ定食に比べて高くなっています。 材料費の見直しとして、牛ミンチを減らして豚ミンチを混ぜる(肉100%は維持)、エビを小ぶりなものに変える(ブラックタイガーからバナメイエビへ)などの対策が必要かも知れません。
また、仕込みはエビの殻むきに時間がかかっていることが分かりました。殻がついていないものを仕入れてバイト代を削減するなどの対策が考えられます。 原価を出してみると、どこにいくらかかっているかが見えてきます。そうすれば、具体的な打ち手も考えることができます。原価を見直して利益を増やしていきましょう。
今回は原価のお話をしましたが、もちろん売上を伸ばすことも大事です。原価削減により得た利益を売上増加のために投資し、皆様の事業が健全に成長していかれることを応援いたします。こうべ企業の窓口には多くの専門家が所属しています。販売促進に関するご相談は中小診断士、儲かったときの税務相談は税理士、人を雇ったときなど人にまつわるご相談は社会保険労務士、新規事業を始める際の法務相談は弁護士、事業計画の取りまとめは公認会計士など、あらゆるステージの企業に対し、専門家がチームとしてサービスを提供することが可能です。どんなご相談でも是非お問い合わせください。
執筆者ご紹介
公認会計士 税理士 中小企業診断士 森清聡啓(もりきよ・あきひろ)
23年大手監査法人にてキャリアを積んで参りました。より顧客に密接したサービスを展開するため、2021年10月に神戸三宮にて会計事務所を起ち上げました。顧問税理士、経営計画作成支援、上場準備支援、業務効率化等、数字にまつわるサービスを幅広く展開していきます。
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