隣の建物が傾いてきている、隣地にゴミが放置されて害虫や悪臭が発生しているなど、不動産で困ったことはないでしょうか。この度、民法の改正によって、所有者がわからない不動産や適切に管理されていない不動産について、新たな制度がつくられました。
不動産に関わる業種の方は知っておくべきものになると思います。
不動産に関わる業種以外の方でも、事業で不動産を所有することもあるでしょうし、事業承継の際にもトラブルを抱えた不動産が問題になることもありますので、知っておいて損はありません。
では、各制度について、説明いたします。
1 所有者不明土地・建物管理制度
隣の建物が自社の事務所や工場に傾いてきて危険が迫っているとします。隣の建物が倒れないように処置をしてもらうには、どうすればいいでしょうか。
まず、登記情報を見て隣の建物の持主を確認します。持主に連絡がとれる場合には、建物が倒壊しないように対応をして欲しいとお願いすることになります。
ところが、登記情報を確認しても、持主がわからない、持主の居場所がわからないといったことがあります。
このようなとき、建物を適切に管理する人を選任して欲しいと裁判所に申し立てることができます。これが所有者不明土地・建物管理制度になります。
もっとも、すでに、不在者財産管理人や相続財産清算人という、持主の居場所がわからないときや、持主がすでに亡くなっていて相続人がいないような場合に、適切に管理する人を選任して欲しいと裁判所に申し立てる制度はあります。
では、これまでの制度と所有者不明土地・建物管理制度は何が違うのか。異なる点は大きく2つあります。
1つは、管理する財産の範囲です。 例えば、隣の建物の持主がAさんだとします。不在者財産管理人や相続財産清算人は、「人」単位での選任となるため、Aさん名義の全ての財産を管理する必要がありました。
つまり、問題となっている建物だけでなく、他の不動産や預金、株、保険といった全ての財産を管理しなければならないため、管理に手間がかかっていました。
他方で、所有者不明土地・建物管理制度は、「不動産」単位での選任になります。
つまり、問題となっている建物だけを管理すればいいため、他の関係のない財産は管理する必要がなく、管理の手間が小さくなります。
所有者不明土地・建物管理制度は、これまでの管理制度よりも管理の負担が少ないため、早期に問題を解決できる可能性があります。
2つめは、共有の場合です。 例えば、隣の建物がAさん、Bさん、Cさんの共有で、かつ、全員が行方不明だとします。先ほども言いましたとおり、不在者財産管理人や相続財産清算人は、「人」単位での選任となります。
そのため、共有地の場合にはAさん、Bさん、Cさん、それぞれに管理人を選任しなければならず、選任手続が非常に煩雑になっていました。
ところが、所有者不明土地・建物管理制度は、「不動産」単位での申立となるため、共有の場合でも、1人の管理人の選任を申し立てるだけでいいのです。
このように、所有者不明土地・建物管理制度には、これまでの制度にはなかったメリットがあります。
2 管理不全土地・建物管理制度
隣の建物が傾いていたり、ゴミの放置によって害虫や悪臭で困っているといった場合、どのように対応すればいいでしょうか。
まずは、先ほどと同じように登記情報を見て持主を確認し、持主に対応をお願いすることになります。持主が対応してくれない場合には、裁判をして対応してもらうことになります。
しかし、裁判になりますと年単位で時間がかかることも多く、また、裁判では継続的に管理するといった判決は出せないため、柔軟な対応ができないというデメリットがあります。
そこで、建物や土地を適切に管理する人を選任して欲しいと裁判所に申し立てることができるようになりました。
これにより、継続的かつ柔軟な対応によって、問題をスムーズに解決できることが期待できます。
ただ、隣の建物に住んでいる持主が管理人の選任に反対しており、管理人の管理に対して妨害が予想されるような場合、裁判所が管理人を選任したとしても現実的に管理することは難しいでしょう。
このような場合は、従来どおり裁判をするしかないと思います。
3 まとめ
隣地とトラブルになった際に、新しい制度ができていたなと思い出していただければ幸いです。
不動産に関しては、他にも、相続登記の義務化や相続土地国庫帰属制度といった新しい制度ができております。
気になる方は、当職も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げております「こうべ企業の窓口」にお問合せ下さい。複数の士業が連携し、全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
執筆者ご紹介
弁護士 森本圭典(もりもと・けいすけ)
弊所は平成元年に開設してから地域に根ざしたリーガルサービスを提供して参りました。生活のなかで生じる様々な問題に取り組み、取り扱った事件の数は多数にのぼります。
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