顧問先の経営者から雇用している従業員の家族に関することで、以下のような遺族年金の相談がありました。
「長年連れ添った円満な夫婦として結婚生活を行っていたが、夫が突然暴力を振るうようになった。そのため、やむをえず1年以上前から、DV被害から避けるために子供を連れて 別居して避難生活を行っている。最近、夫が闘病中で余命いくばくもないと聞いたが、もし夫が亡くなった場合、遺族年金を受けられるのだろうか?」
妻は長年連れ添った円満な同居生活を続けてきたのだから、夫が死亡すれば、当然遺族 年金を受け取ることができると考えてもおかしくはないはずです。
しかし、遺族年金を受けるために必要な生計維持要件は「被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持されていた」と規定されており、「死亡当時」 のみの状況で判断されるのが原則です。
したがって、妻がDV被害を避けるために別居している状態がこのまま続いていくと、 夫が死亡しても、「死亡当時」生計維持要件を満たしていなかったとして、遺族年金を受給できない可能性があります。
ただし、DV被害などのやむをえない事情で別居している場合は、一定の条件下で、 遺族年金を受給できる可能性があります。
被保険者(夫)の死亡時において以下の①~⑤までのいずれかに該当しているDV被害者においては、被保険者(夫)と別居中、また、住民票上の住所が別住所であったとしても、DV被害者という事情を考慮する必要があります。
① DV防止法に基づき裁判所が行う保護命令に係るDV被害者
② 婦人相談所、民間シェルター、母子生活支援施設等で一時保護されているDV被害者
③ DVからの保護を受けるために、婦人保護施設、母子生活支援施設等に入所している DV被害者
④ DVによって、秘密保持のために基礎年金番号が変更されているDV被害者
⑤ 公的機関や公的機関に準ずる支援機関が発行する証明書を通じて、上記に準ずると認められるDV被害者
そして、被保険者(夫)の死亡時という一時的な事情のみならず、別居期間の長短、 別居の原因やその解消の可能性、経済的な援助の有無や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して、遺族年金を受給できるかどうかを判断していきます。
そのため現在、DV被害で別居している妻が、今後遺族年金を確実に受給するために準備すべき方法は以下の3点です。
1.上記①~⑤のDV被害者の対象者となり、遺族年金の請求時に必要となるDV被害者で あることが確認できる証明書(裁判所が発行する保護命令に係る証明書、配偶者からの 暴力の被害者の保護に関する証明書等)を事前に入手しておくこと。
2.今後もし夫婦関係が修復可能であれば、住民票を戻して、夫と同居生活を送ること。
3.同居が困難で別居中であっても、夫から生活費を受け取り、定期的に夫の元に通い、 病床の夫の世話を行う等、法律で規定する別居時の実質的な生計維持要件を満たすべき、疎明資料を可能なかぎり積み重ねること。
DV被害によって、やむをえず別居避難しているがゆえに、遺族年金を受給できなくなるというのは、理不尽であるため、万が一の際に備えて準備しておきましょう。
執筆者ご紹介
社会保険労務士 西尾隆(にしお・たかし)
うつ病、がん、人工透析、糖尿病、脳梗塞、心疾患などあらゆる病気が障害年金の対象です。障害年金を活用することで、がんなどの病気で働けない従業員への就労支援対策にもなります。病気による離職で優秀な人財を流出させない職場環境の構築といった就労支援対策を提案いたします。
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