最低賃金が過去最高のアップ額:130万円の年収の壁・利用しやすい助成金/社会保険労務士庄司茂

2024 年 10 月 1 日より、最低賃金が引き上げられます。今年の最低賃金は過去最高の上げ幅であった昨年をさらに上回り、1,052 円となります。岸田総理大臣は、2030 年代半ばまでに 1,500 円に引き上げることを新たな目標にすると表明しています。したがって、過去最高額である今年の引き上げ額と同程度の最低賃金の引き上げが今後も続くと予想されます。今回の最低賃金の大幅な引き上げに伴って、社会保険の被扶養者となる基準である年収 130 万円以内とされる年収基準を超えるパート・アルバイトが大幅に増えることが確実となっており、この傾向は今後ますます増えていくことになります。

Ⅰ どれぐらい働けば、130 万円の壁を超えるのか

パート・アルバイトの契約でよくあるパターンとよく質問されるパターンを事例で説明します。

事例①: 1 日 5 時間、週 5 日労働(1 週 25 時間労働)の場合

1 か月の労働時間数は、

365 日÷7 日÷12 か月×25 時間≒108.6 時間

これを基に 2024 年 9 月までの兵庫県最低賃金 1,001 円で計算すると

108 時間×1,001 円×12 か月=1,297,296 円

となり、この場合は、被扶養者となります。

 

2024 年 10 月からは

108 時間×1,052 円×12 か月=1,363,392 円

となり、この場合は、被扶養者とはなりません。

事例②: 1 日 4 時間、週 5 日労働(1 週 20 時間労働)の場合

1 か月の労働時間数は、

365 日÷7 日÷12 か月×20 時間≒86.9 時間

これを基に 2024 年 10 月からの兵庫県最低賃金 1,052 円で計算すると

86 時間×1,052 円×12 か月=1,085,664 円

となり、この場合は、被扶養者となります。

事例③ パートタイマーが 130 万円を超える労働時間数

年間の総労働時間数は

1,300,000 円÷1,052 円≒1235.7 時間

1 か月の労働時間数

1235.7 時間÷12 か月≒102.9 時間

1 か月 102 時間ならば

1,052 円×102 時間×12 か月=1,287,648 円

となり、1 か月の労働時間は 102 時間が目安となり、この場合は、被扶養者となります。

1 か月 103 時間ならば

1,052 円×103 時間×12 か月=1,300,272 円

となり、この場合は、被扶養者とはなりません。

Ⅱ 利用しやすい助成金「業務改善助成金」

1 対象となる事業者

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を 30 円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。対象事業者の条件の一つに「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が 50 円以内であること」という条件があります。最低賃金が 1,001 円である場合は、50 円以内である、1,051 円より時間給単価が低い労働者がいないと対象になりませんが、今回の最低賃金の改正で、時間単価が 1,052 円+50 円=1,102 円以下の労働者がいる事業者が対象になります。このことで今までより多くの事業者が対象となります。

2 対象となる設備投資

※対象となる設備投資は下記交付要綱参照

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001238315.pdf

※利益率の低下などの条件を満たして特例事業者となる場合は、通常認められない、一定の条件の自動車やパソコン等の導入が認められることがあります。

3 助成金の上限額と助成率(別表1参照)

助成金の上限額は、賃金の引き上げ額や対象人数によって、30 万円~600 万円となり、30人未満の事業者は優遇された助成金となっています。

助成率は、3/4となっていますが、一部条件(生産性要件)を満たした場合は4/5となっています。

事例①:

従業員数 30 人未満で、時給 1,102 円以下の時間給を 30 円以上アップして対象者が 2 人いる場合は、助成金の上限額が 90 万円となります。

(30 人以上は 50 万円)

 

事例②:

従業員数 30 人未満で、時給 1,102 円以下の時間給を 60 円以上アップして対象者が 1 人いる場合は、助成金の上限額が 110 万円となります。

(30 人以上は 60 万円)

 

事例③:

前述の特例事業者が、時給 1,102 円以下の時間給を 90 円以上アップして対象者が10 人いる場合は、助成金の上限額が 600 万円となります。

(30 人の区分なく同額) 

4 月給者も対象になる

対象の時給者がいない場合でも時間当たりの賃金が 1,102 円以下であれば月給者も対象となります。月給の場合の具体的な事例を挙げてみます。 

事例①:

1か月の労働日が 21 日で 1 日 8 時間労働なら、月間労働時間は 168 時間となり、 1,102 円×168 時間=185,136 円となります。

 

事例②:

1か月の労働日が 21.5 日で 1 日 8 時間労働なら、月間労働時間は 172 時間となり、1,102 円×172 時間=189,544 円となります。

 

上記事例の時間単価計算のもとになる賃金は通常支払われる固定的な賃金で、基本給だけでなく一部の手当ても入ります。上記事例の金額を参考に自社の事業所内最低賃金をチェックしてみましょう。

5 大まかな流れ

大まかな流れは、

実施計画書作成・交付申請 → 計画認定 → 設備注文・支払い → 実績報告書・支給申請 → 審査 → 助成金支給

となります。

 

すでに多くの申し込みがあります。計画認定が遅れることも考えられます。早めに申請手続きをしていきましょう。

 

この助成金のここでの説明は、大まかなものです。詳細等は社会保険労務士又は労働局雇用環境・均等部(室)にお問い合わせください。

別表1 (業務改善助成金助成上限額)

※ 10 人以上の上限額区分は、特例事業者が、10 人以上の労働者の賃金を引き上げる 場合に対象になります。

私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

執筆者のご紹介

社会保険労務士 庄司茂(しょうじ・しげる) 

「人事評価制度導入支援」:頑張った人を評価するシステムづくり、「就業規則作成」:問題社員対策・リスク対応型就業規則の作成、「助成金・補助金申請支援」:厚労省・経産省など、「経営者向け労務管理セミナー」を得意分野としています。

 

  1.人事評価制度導入支援

  2.リスク対応型就業規則作成

  3.助成金・補助金申請支援

 

社会保険労務士法人庄司茂事務所

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