本音で語り合える職場環境の形成~組織の健康と未来を見据えて~/社会保険労務士藤原都子

①心身の健康と組織の健康

増加するばかりのメンタルヘルス問題において、現代では「職場」の中で自己の存在を確立できない人々が増えており、ハラスメント問題も顕在化しています。相手を萎縮させることでしか自分の存在価値をみいだせない方々も含め、企業では心の病に罹患された方が非常に多いです。

 

厚生労働省「令和5年度・過労死等の労災補償状況」によりますと、仕事によるストレスを原因とする精神障害の労災請求・支給決定件数はともに過去最多の数値となっており、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が前年度比増で最多の支給決定事案となっていることがうかがえます。

 

心の病による休職事案や、傷病手当金申請、労災給付申請も年々増加しています。

こういったメンタルヘルス不調になる要因の多くは、裁量権が業務において無いという状況下に加え、能力以上の業務量という負荷によって生じています。また、このような心の病は、ヒトを育てる余裕がない企業ほど増加しているという傾向もあります。労働力人口が減少している現代、益々メンタルヘルスの不調者は増えていくものと考えます。ですから私たちは自社組織内では恐れの無い健やかな運営をしていく必要があります。そこに必要なのが心理的安全性です。

②心理的安全性

心理的安全性は組織文化です。チームメンバーの関係性の中から生まれます。「心理的安全性」が、大きく注目されてから数年も経過していますが、心身の健康と組織の健康は密接に関連しています。自由に本音が言えない組織風土では、不正や組織の不祥事、コンプライアンス違反、死亡事故やメンタルヘルス不調の温床にもなります。これくらいならいいだろう・・、ばれなければ問題ない・・、と、うっかり陥りがちな社内不正。小さなことが積み重なって慣習となり、結果、大きな不正となっていくものです。ささいな甘えや油断が大きな不正につながる可能性もあり、現場の不満や不安、不信が鬱積するだけの組織では、メンタル疾患に至ったり、パワハラを防止できなかったり、離職に発展することもあれば、労働基準監督署に駆け込まれたり、内部告発されたりするものです。昨今ニュースでも経営者層の方々がお詫びするという報道を多く目にしますが「組織の病」として捉えられます。

 

アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」理論において、(1)不正を行うための「動機・プレッシャー」(2)不正を行う「機会」(3)不正を行うことを「正当化」することで成立すると言っています。例えば信号無視。赤信号を渡ってしまったという経験は少なからずとも存在することと思います。急いでいる(動機)、誰も見ていない(機会)、皆がやっている(正当化)、という不正のトライアングルが成立し、信号無視をするという不正を犯すというような流れがイメージしやすいです。このように小さな不正の積み重ねが大きなコンプライアンス違反を招くこととなりますので、職場内において、疑問や意見等本音で語れない職場ではコンプライアンス違反に繋がる恐れがあるものです。

 

組織行動学研究者のエドモンドソン氏は、心理的安全性とは、「対人関係上のリスクをとっても受け入れられる環境であるとチームメンバーがお互いに信じていられる状態」のことであると定義し、集団の中に存在する、お互いに尊重し合い、信頼し合う状態、それが率直でいられる環境を生み出すと言います。ここでいう対人関係上のリスクとは、こんなことを言ったら嫌われるのではないか、仕事上での人間関係が悪くなるのではないか等頭によぎり、アイデアを話したり、思い付いたこと、質問や懸念や異議を述べること、失敗を話すこと等を抑えてしまう状況を指します。

 

どこまでも、率直に意見を言い合える場を作ることにフォーカスする。ここが今日の日本企業においては急所であり要の部分と考えます。 

③本音で語り合える場(組織病)

公益財団法人 21 世紀職業財団の「皆さんの職場は本音で語り合える場がありますか?」というアンケート結果<男女正社員対象 ダイバーシティ推進状況調査>によれば、約 6 割以上の人が自分の本音を職場で自由に話せないと回答しています。つまり、2人に一人、半数以上の働き手が社内や職場内では思ったことが自由に言えない、本音で語れる環境ではない、と言っているということです。これが組織病を引き起こす一因となっています。

④先進企業での取り組み

ピーター・ドラッカーが述べた言葉に「文化は戦略に勝る」と言う言葉があります。企業の文化は戦略を凌駕するため、組織全体の健康を高めることが重要であり、企業は自社の文化を見直し、改善していくことが求められています。企業文化を、自分達らしいより良いものにしていく、ここに集約・集中されてくるものと思います。先進企業では、より良い企業の未来を目指すための原動力となる働き手一人ひとりの心身の健康を「経営課題」と捉え、『心身の健康と組織の健康はリンクしている』と認識した上での取組みが以下のように進んでおります。

⑤相談室の設置

例えば小中学校でいう保健室のような相談室の設置が増えつつあります。こういった相談室の設置により、社員との面談を定期的に継続実施するという仕組みや姿勢であったり、その試み自体が大切であり、着手しにくい場合は、まずは枠組みを整えることから始めることも有効です。組織の安心感につながり社員の声に応える取組み姿勢が重要です。

⑥ES調査

また、ES 調査を定期的に実施されている事例もあります。ES とは、「Employee Satisfaction」の略称で日本語では「社員満足度」と訳されます。ES 調査では働きがいやモチベーションといった内的な思考・感情を、定量的に把握することを目的とします。人間性尊重経営と捉えますが、社員を甘やかしたり迎合することを指し示すこと ではありません。働き手の意識や組織に対する評価を把握するための重要な手段です。定期的な ES 調査を通じて、社員が感じている職場の課題や不満、または改善点を可視化し、それに基づいて組織の改善活動を進めることが求められます。ES 調査結果は、組織文化の見直しや業務環境の改善に直結するため、社員の声を企業運営に反映させるための貴重なデータとなります。労使で組織課題について共通の認識をもつことに繋がりますし、労使で対策を検討する場づくりにも繋がります。調査結果はオープンにし、課題解決のためのアクションプランを策定・実施することで、社員のエンゲージメント向上につながります。ES 調査を単なる形式的なものに終わらせず、具体的な行動に移すことが重要です。調査結果に基づいたフィードバックや改善施策を行うことで、働き手の満足度が向上し、離職率の低下や生産性の向上、さらには組織全体の健康に寄与するでしょう。

 

社員の成長と充実感を得ながら仕事に取り組むための課題を知るためにも ES 調査は有効です。2020 年6月に労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行されてからはハラスメントに関するアンケートは特に多く実施されてはおりますものの、仕事内容や人間関係、職場環境など多岐にわたる様々な質問項目で ES 調査の実施をすることで、組織課題を明確にし、労使で共通の認識をもつことを可能とし組織のため、また働く個々人のための対策をたて、共に未来を作り上げるための施策を考えることができます。

⑦声を受けた後のフィードバック

ES 調査等で得た意見や、声を受けた後のフィードバックは、内部でも外部委託でも効果があります。重要なのは、受けとった声に対する適切なフィードバック(反応)です。組織病に陥る企業では、意見を受け入れる機会がなく、面談が形式的だったり形骸化している等、フィードバック(組織としての反応)が無いままで不満が募ることもあります。メンタルヘルスの不調者とも十分なフィードバックを行い、働き手の存在価値を高めます。働き手の声を聴く場を「機会」として設け、声を受けとめてフィードバックし、企業として反応する。これにより、離職者数の減少や企業の成長にも貢献し、組織と個人の健康を促進します。組織内での働き手に対する心身の健康サポートは、未来に向けた重要な投資であり、社員の働きやすさや生産性を高め、組織全体の競争力をも強化し、個人も組織も健やかに成長していく好循環を生み出します。職場内で相談し合える文化づくりを是非おこないましょう。

ご自身ではよくわからない!もっと具体的に知りたい!という場合は、是非こうべ企業の窓口までご相談ください。

12 士業約 30 名の専門家が全力でサポートいたします。

執筆者のご紹介

社会保険労務士/精神保健福祉士 藤原都子(ふじわら・みやこ)

ヒトに重点をおいたご支援を組織開発を含めてしております。人生における仕事の時間を🍀幸せに🍀はたらく力を増やす取り組みをご支援しております。経営者の視点に立ったコンサルティングに定評がある経営型社会保険労務士。リスクマネジメントで、企業経営を強力にサポートし労使関係を強化します。

  1. 就業規則のコンサルテーション
  2. キャリアパス制度導入構築支援+ES調査
  3. 働く方々のメンタルヘルス、セルフケア支援、定期面談実施による伴走型支援

 

はみんぐふる社会保険労務士法人みやこ事務所

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