フリーランス法とは、フリーランスの方が安心して働ける環境を整えるために作られた法律です。フリーランスは、形の上では個人事業主です。実質的に「労働者」といえなければ労働基準法等の適用がなく、十分に保護されていませんでした。本稿では、2024 年 11 月 1 日から施行されたフリーランス法の新しいルールを大まかに確認していきます。
1 フリーランス法の適用範囲
フリーランス法は、「特定受託事業者」に業務委託をする事業者に適用されます。「特定受託事業者」とは、①個人であって、従業員を使用しないもの、②役員が1人だけの法人で、従業員を使用しないものをいいます。本稿では、単に「フリーランス」と呼ぶことにします。
ここでの大きな注意点は2つあります。
1つ目は、法人成りした者であってもフリーランス法の適用があり得ることです。従業員のいない一人役員の法人は組織としての実態を有しないと考えられるからです。
2つ目は、「従業員を使用」しているか否かは、雇用保険の被保険者の基準と同一に考えられていることです。「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が 20 時間以上であり、かつ、②継続して 31 日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。また、派遣労働者を受け入れる場合には、当該派遣労働者を雇用していないものの、①と②を満たす場合、「従業員を使用」に該当するとされています。
フリーランスに当たる事例 |
フリーランスに当たらない事例 |
・個人が、週15時間労働で2か月間雇用見込の者を雇用している場合 |
・個人が、週30時間労働で2か月雇用見込の者を雇用している場合 |
・個人が、週30時間労働の2週間雇用見込の者を雇用している場合 |
2 募集時の「的確表示義務」と契約時の「取引条件明示義務」
フリーランスとの取引においては、契約条件があいまいなままに業務がスタートしたり、後で発注者側から取引条件を引き下げられたりとトラブルになる事例がありました。そこで、フリーランス法では、募集時の「的確表示義務」と契約時の「取引条件明示義務」を定めることで、トラブルを防止することを狙いにしています。
「的確表示義務」とは、広告等でフリーランスを募集する場合、発注者は、①業務内容、②業務従事の場所、期間又は時間に関する事項、③報酬に関する事項、④契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項、⑤募集を行う者に関する事項を明示する必要がある義務をいいます。
「取引条件明示義務」とは、フリーランスに業務委託した場合、直ちに、次の取引条件を書面や電磁的方法(メールや SNS のメッセージ機能)によって、通知する必要がある義務をいいます。それは、①双方当事者の商号等や事業者別に付された識別番号等、②業務委託の日、③業務内容、④業務提供を受ける期日、⑤業務場所、⑥業務内容を検査する場合は、検査完了期日、⑦報酬の額及び支払期日、⑧現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項、⑨内容が定められない事項がある場合の明示事項等です。
3 フリーランスの報酬に関するルール
(1) 報酬については、金額の明示が困難であるやむを得ない事情がある場合、算定方法を明示することも認められます。
(2) 業務委託の目的物にフリーランスを権利者とする知的財産権が発生する場合において、発注者が、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含めて業務委託を行うときには、その対価を報酬に加える必要があります。
(3) 発注者は、フリーランスが要する費用等(材料費、交通費、通信費等。)を発注者自身が負担する場合には、当該費用等の金額を含めた総額が把握できるように「報酬の額」を明示する必要があります。
(4) 報酬の支払時期については、発注者は、発注者がフリーランスの業務内容について検査をするかどうかを問わず、業務が完了した日(「給付を受領した日」)から起算して60 日以内(給付を受領した日を算入する。)のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定める義務があります。
もっとも、「毎月月末日締切、翌月末日支払」の場合には、例えば「7月1日受領、8月 31 日支払」となると、給付受領日から 62 日目が支払日になりますが、3 条通知に明記されていること等を条件に許容されることがあります。
4 発注者側の禁止行為
(1) フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスの給付の受領を拒むこと(受領拒否の禁止)、報酬の額を減ずること(報酬減額の禁止)、フリーランスの給付を受領した後、フリーランスにその給付に係る物を引き取らせることは禁止されます(返品の禁止)。フリーランスの「責めに帰すべき事由」とは、給付内容が委託内容と適合しない場合等です。
(2) フリーランスの業務内容と同種・類似の内容に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めることは禁止されます(買いたたきの禁止)。
(3) フリーランスの業務内容を均質にしたり、その改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させたり、役務を強制して利用させたりすることは禁止されます(物の購入強制、役務利用強制の禁止)。
(4) フリーランスの利益を不当に害するような金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることは禁止されます(不当な経済上の利益提供要請の禁止)。
(5) フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスの給付の内容を変更させ、又はフリーランスの給付を受領した後(役務の提供を受けた後)に給付をやり直させることは禁止されます(不当な給付内容の変更・不当なやり直しの禁止)。
5 フリーランス契約終了時のルール
6か月以上の継続的業務委託に関して、特定業務委託事業者が、フリーランスに対し、契約を解除する場合や契約満了後に更新をしない場合には、30 日前に書面や電磁的方法によって予告することが必要です。
「特定業務委託事業者」とは、フリーランスに業務委託する事業者のうち、①個人であって、従業員を使用するもの、又は②2人以上の役員がいる法人であるか、従業員を使用するものをいいます。
6 ハラスメント、出産·育児·介護に関する配慮義務
発注者のうち、特定業務委託事業者については、フリーランスに対するハラスメントを防止するために必要な体制を整備する義務があります。
6か月以上継続的に業務委託を行う特定業務委託事業者については、フリーランスの出産・育児・介護等のために配慮する義務があります。
7 まとめ
多様な働き方が求められる現代において、フリーランスの存在感は大きくなっています。業務委託する側の事業者もフリーランスである事業者も重視しなければならない新法といえ、今後の運用に注目です。
私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
執筆者ご紹介
弁護士 安井健馬
紛争には、法的問題にとどまらず、様々な感情・気持ちの問題が含まれていると思います。私は、それぞれの紛争について、ご相談者が抱える法的問題や悩みと向き合い、最善の解決策を模索して、十分な満足を提供したいと思っております。
ご相談者に満足して頂けるよう、全力を尽くして取り組んで参ります。
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