· 

建築に関する訴訟って大変/弁護士森本圭典

建築に関する業種の方はもちろん、それ以外の業種の方であっても、建物や工場の建設やリフォーム、修繕を行うことはありますよね。この建築に関して争いが生じた場合、なかなか大変なことになります。発注者、受注者、それぞれの立場になってお話します。

 

 

1 発注者の立場

工場の建設を発注したけども、①想定していた仕様と異なっていた、②瑕疵(本来あるべき機能、品質、性能、状態が備わっていないこと)があった、③契約していた金額より高額の代金を請求されたなどのトラブルがあります。 

 

①想定していた仕様と異なる

多額の費用をかけて建設したのに、出来上がったものを確認すると想定していた仕様と異なっていることがあります。

このようなトラブルを防ぐためには、どのような内容にするのか、受注者でよく話し合って決めることが大切です。今では3Dで設計できるソフトがあるため、事前に、完成建物の状態を確認することができるようになりましたが、それでも、建築に精通していなければ、実際の完成建物の予想しづらいものがあります。

法律上、請負契約において重要となるのは、当事者間での合意です。どのような建物を建築することで合意していたのかが重要となりますので、しっかりと要望を伝え、設計図や見積書などに落とし込んでいくことが必要となります。

この場合に注意すべきなのが、口頭でのやりとりだけでは証拠が残りません。大切なことは議事録を作成し、LINEやメールで受注者に送って確認をとっておくといいです。 

 

②瑕疵があった

瑕疵がある場合でも、重要なのは、当事者間でどのような合意があったか、になります。

瑕疵があった場合の対策としても、先ほど述べた通り、要望はしっかりと設計図や見積書に落とし込み、大切なことは文章に残しておくべきです。

瑕疵の場合、特に大変なのが、瑕疵の証明です。壁に穴が空いているといった明らかな場合はいいです。しかし、必要な強度を有していない、適切な工法で行われていないという場合は、一見しただけではわかりませんし、そもそも、素人だけでは判断できません。もちろん、裁判官も写真を見ただけではわかりません。

そこで、建築士の方に依頼して調査報告書を作成していただくことが必要になります。

建築士の方に調査報告書の作成を依頼した場合、報告書の内容にもよりますが、内容が多岐にわたる場合には、作成費用が数十万円になることがあります。

加えて、弁護士に依頼すると、弁護士費用も必要となります。弁護士費用は請求金額を基準にして算出されることが多く、建築訴訟の場合には請求金額も高額になるため、弁護士費用も高額になる傾向にあります。

例えば、1000万円を請求する場合、旧弁護士報酬基準では着手金は59万円(消費税別)になります。1000万円全額を回収することができたら、報酬金は118万円(消費税別)となります。

裁判をすると多くの費用がかかることに加えて、時間もかかります。瑕疵を争う訴訟では平均審理期間が25カ月というデータもあります。

このように建物の瑕疵に関する争いは時間も費用もかかるため、トラブルを避けるためにも、見積書や設計図など必要な資料は保存しておくこと、重要なやりとりは文章に残すこと、信頼できる業者を選ぶことが重要となります。

  

③契約した金額もより高額だった

当初の話し合いの内容のまま工事が進めばいいのですが、途中で仕様を変更することや、追加工事を行うことはよくあります。

この際に、口頭のやりとりだけではトラブルの元になります。繰り返しになりますが、重要なことは文章に残す必要があります。

変更する場合には、具体的にどこをどう変えるのか、追加工事をする場合には、どのような工事でいくらかかるのか、必ず文章に残して下さい。

2 受注者の立場

まずは、発注者とよく話し合って、発注者が求めていることを正確に把握する必要があります。3Dソフトなどを用いて具体的な完成イメージを伝え、証拠として残しておくと有用です。

次に、発注者と合意に基づき、見積書、設計図といった書面を適切に作成することが、トラブルの予防になります。

特に見積書は、「工事一式」のような概括的な記載では紛争の原因となるため、見積書を作成する場合には出来るだけ詳細な内容を記載すべきです。

また、工事の仕様や設備を変更する場合には、必ず、発注者の合意を得たことを文章に残して下さい。口頭での承諾は証拠に残らないため、工事後に、勝手に仕様を変更されたと訴えられることや、勝手に追加工事が行われたとして費用の支払いを拒否されることは珍しいことではありません。

何より、資金繰りを考えると、建築に関する争いは避けたいものです。

先ほど述べたように、裁判になると解決まで年単位で時間がかかることになるため、実際に代金の支払いを受けるまで非常に時間がかかってしまい、資金繰りに悪影響を与えます。資金繰りに余裕があったとしても、何百万円、場合によっては何千万円にもなる工事代金の支払いを受けることができないのは、非常に厳しいものです。

また、弁護士に依頼すると弁護士費用などが必要となるため、工事を受注したものの、十分な利益を確保できなくなることもあります。

そのため、トラブルを避けるために、発注者とよく話し合う、見積書や設計図は適切に作成する、重要なことは文章に残す、など、日頃から必要な対策をしていきましょう。

 

 

執筆者ご紹介

弁護士 森本圭典(もりもと・けいすけ)

 

弊所は平成元年に開設してから地域に根ざしたリーガルサービスを提供して参りました。生活のなかで生じる様々な問題に取り組み、取り扱った事件の数は多数にのぼります。

  1. 個人の民事・家事事件
  2. 民事事件
  3. 遺産相続

かなえ法律事務所

〒651-0088 神戸市中央区小野柄通3丁目2-23 スタンダードビル2階

TEL 078-200-3321