超高齢化社会における金融資産の終活とは/ファイナンシャル・プランナー船津正明

今年は団塊世代が後期高齢者になり急速に高齢化が進行しています。65歳以上の5人に1人が認知症という推計もあり「老老相続」どころか、認知症の相続人が認知症の被相続人から財産を引き継ぐ「認認相続」という深刻な事態の増加が懸念されています。そこで、これからの金融資産の終活や認知判断能力が低下した場合の有効な制度についてご案内します。

 

相続財産は現在の46兆円から、2030年には48兆円、2040年には51兆円と拡大することが見込まれています。相続件数や相続財産が拡大することで円滑に相続移転が進まなければ経済・金融面での影響が大きくなってしまいます。相続発生前にやるべきことは主に4つです。

①「財産目録を作成する」

②「銀行や証券の口座を集約する」

③「不要な保険契約は解約する」

④「相続人を確認し必要であれば遺言書を作成する」

などがあります。しかし、上記4つの相続対策は認知判断能力が低下してしまうと手遅れになるので早めの準備が必要です。そこで、事前に検討しておきたい金融機関などでの代理取引についてご説明します。

取引銀行との代理取引

銀行においては、認知判断能力が低下した顧客との取引をする場合、民法上の法定後見制度である補助人、保佐人の同意を確認のうえ本人との取引を行うのが原則です。一方で、成年後見人や任意後見制度にもとづく任意後見人を介して、代理取引を行うこともあります。しかし、ご家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースが増加しています。本人の医療費、施設入居費、生活費等の支払いに充当するため、親族等への預金の払出し(振込)を求められるケースが年々増加しているのが実情です。

                                  一般社団法人全国銀行協会 HP より

予約代理制度とは

現在、認知判断能力低下の対策として三菱 UFJ 銀行やみずほ銀行で利用出来る予約代理制度についてご説明します。下記のイメージ図をご覧ください。

                                           三菱 UFJ 銀行 HP より

口座名義本人の認知判断能力が低下し、本人による金融取引ができなくなる場合に備え、将来、本人の代わりに取引いただく代理人を指定出来るサービスです。代理人を措定後もそれまでと変わらず本人が取引可能ですが、本人との取引が困難となり、代理人から専用の診断書を提出すれば、指定の代理人との取引が開始されます。代理人として指定出来るのは原則としては配偶者、または二親等以内の血族ですが、その他の親族を指定することも可能です。代理人ができる手続きは、円預金の入出金・解約、運用商品の売却、解約、住所変更などがありますが金融機関によっては対応が異なるケースもあります。特定の親族がこの制度を不正利用すると相続時にトラブルに発展してしまうので代理人の選定には注意が必要です。また、証券会社でも多くが同様の代理人制度を導入しているのでご利用の際は、取引証券会社にて詳細をご確認ください。 

保険契約の指定代理請求制度

保険会社の指定代理請求制度とは、被保険者本人に「特別な事情」がある場合、契約者があらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって、保険金等を請求できる制度です。代理人を指定する際に、契約者は被保険者の同意を得る必要があります。

「特別な事情」とは

1.傷害または疾病により、保険金等を請求する意思表示ができない場合

2.治療上の都合により、傷病名または余命の告知を受けていない場合

3.その他(1)または(2)に準じた状態である場合

指定代理請求できる保険金・給付金の種類は生命保険会社によって異なります。生命保険会社によっては指定代理人制度が利用出来ない場合もありますので注意が必要です。

指定代理請求制度の給付内容等

指定代理請求制度の給付の対象となるのは被保険者が受取人になっている場合です。具体的には入院給付金や手術給付金、高度障害保険金、特定疾病保険金、リビング・ニーズ特約保険金、介護保険金・介護年金などがあります。また、被保険者と受取人が同一人の場合の満期保険金や年金などを代理請求できる生命保険会社もあります。また、契約者と被保険者が同一人の場合の「保険料払込免除」についても、代理請求することができます。一般的には契約に「指定代理請求特約」(特約保険料は不要)を付加して、指定代理請求人を指定することができます。特約ではなく、保険金受取人と併せて契約時に指定代理請求人を指定する生命保険会社もあります。なお、契約途中でも被保険者の同意を得て、指定代理請求人の指定や変更ができます。

指定代理人になれる人は?

生命保険会社によって異なりますが、被保険者の配偶者や、直系血族、同居している親族(3親等以内)などが指定代理人になることができます。

指定代理人請求制度の手続きをしていない場合

「具体例1」契約者が認知症で受取人が死亡した場合

                                       一般社団法人生命保険協会 HP より

「具体例2」契約者死亡、または認知判断能力が低下の場合で保険契約の有無 が不明な場合

                                       一般社団法人生命保険協会 HP より

生命保険契約照会制度の概要

このようなケースでは保険契約の有無を確認するだけでも一苦労です。ご親族等が死亡した場合、または認知判断能力が低下した場合(医師による診断書が必要)に「具体例2」のご親族等が保険契約者または被保険者となっている生命保険契約の有無を、複数の生命保険会社に一括で照会できる便利な制度です。

(利用料は、調査対象となるご親族等 1 名につき、3,000 円)

照会対象者の死亡の場合、照会者が死亡保険金受取人になっている契約については、その旨が通知されます。「具体例2」のような複数の照会者がいる場合は、ご家族等で照会代表者を1名決めてください。そして他の照会者は、照会代表者に照会申込等を委任したうえで申請を行ってください。照会対象者の認知判断能力の低下の場合は、どなたからの照会でも回答内容は同じです。照会代表者お 1 人で申請し、回答内容をご親族等で情報を共有してください。

金融資産の終活として備えておくべきこと

認知判断能力が低下すると、本人の意思が確認できなくなるため、法的な手続きや契約などができなくなります。こうした場合、本人に代わり手続きを行うことができるのは、通常、成年後見制度における成年後見人や任意後見人に限られます。金融資産の終活として事前に備えておくべきことは今回ご紹介した各金融機関などで利用できる各種の代理人制度を活用するほうが手続きも簡便で利用する親族等にとってもメリットは多いと思います。

実際にこれらの制度を検討する際は、信頼できる専門家にご相談ください。

私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

執筆者ご紹介

ファイナンシャルプランナー 船津正明(ふなつ・まさあき) 

 

大和証券にて27年の実務経験により資産運用全般が得意分野です。現在は中小企業経営者と従業員向けの確定拠出年金制度の導入サポートに注力中です。圧倒的な低コストで制度導入から従業員向けの投資教育までワンストップで対応致します。その他各種の融資の相談も承ります。 

 

  1.確定拠出年金制度導入サポート

  2.事業融資&住宅ローン相談

  3.資産運用及び保険見直し

 

船津正明FP事務所

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