本年 4 月 1 日より、パワーハラスメント防止措置が中小事業主に義務化されます。職場 のいじめや嫌がらせを防止するための周知・啓発、相談体制の整備、事後の適切な対応等 を実施しなければなりませんが、具体的にどのようにすればよいのかが課題になります。
パワーハラスメントの用語は以前からありましたが、都道府県労働局に対する「いじめ・ 嫌がらせ」の相談件数の急激な増加を受け、2019 年に労働施策総合推進法の改正で防止措置が新設され、用語の定義も法律上明確化されました。
実際に防止を図るためには、まず組織として「許さない」方針を掲げた上で、何がパワ ーハラスメントに該当するのか把握し、予兆を含めたいじめ・嫌がらせの等の行動を防止 するための周知・啓発に力を入れる必要があります。
1. 職場におけるパワーハラスメントとは
次の3つの要素をすべて満たすものと定義されています
2. 代表的な言動の類型
厚生労働省がパワハラに該当する言動として 6 類型を挙げています。
① 身体的な攻撃(暴行・障害)
② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)
④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや業務上不可能なことの強制・仕事の妨害)
⑤ 過小な要求(合理性なく程度の低い仕事を命じる事・仕事を与えない事)
⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
(具体例は厚生労働省HP「職場におけるハラスメント防止のために」参照)
3. 裁判例
近年では、上司が部下を注意・指導・叱責する過程で行う、部下の人格・感情を損なう言動の違法性が問題となるケースが多いようです。裁判結果は審理をつくして総 合判断したものですから、同じ言動が必ずしも違法と認定されるわけではありませんが、裁判例の紹介は具体例を周知させるのに役立ちます。
・極めてアルコールに弱い体質の部下に対し執拗に飲酒を強要したことに対して不法行為を認定し、同部下の帰社命令に背いて直帰したことに対する深夜のメール・留守電が、帰社命令に違反したことへの注意を与えることよりも精神的苦痛を与える ことに主眼がおかれたものと評価せざるを得ないため、注意を与える目的もあったことを考慮しても、社会的相当性を欠き、不法行為を認定(ザ・ウィンザー・ホテ ルズインターナショナル事件-東京高判平 25・2・7)。
・上司の部下に対するメール中に「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」など退職勧告とも取れる表現や、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業 務職でも数倍の実績を挙げますよ。」など、人の気持ちを逆撫でする侮辱的な表現が あり、本人だけでなく職場の同僚十数名にも送信したことは、名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかで、叱咤督促しようとした目的が正当であったとしても、表現が許容限度を超え著しく相当性を欠くとして不法行為を認定(A保 険会社上司事件-東京高判平 17・4・20)。
・高卒入社直後の部下に対し、同行して指導する上司が半年にわたって「学ぶ気持ちはあるのか」「詐欺と同じ、3万円(点検料)泥棒したのと同じ」「会社は辞めた方が皆のためになるんじゃないか」「死んでしまえ」等の言動を繰り返した結果自殺し た事件では、当該社員の人格を否定し威迫するものであり、経験豊かな上司からなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントであると判断(X産業事件-福 井地判平 26・11・28)。
4. 義務化された事業主が講ずべき措置
◆ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
◆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
◆ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
◆ 相談者と行為者、その他関係者のプライバシーの保護
◆ 相談や事実陳述したことによる不利益取扱い禁止とその周知
上記措置の中でも周知・啓発は特に重要です。会社がパワーハラスメントを許さない方針を明確に宣言した上で、周知内容には可能な限り具体例を含むようにし、職場全体 で関心が高まるように推進します。法的に該当しないからといって放置をするのではな く、ハラスメントが疑われる行為を許さない組織文化を育む姿勢が求められます。
5. 会社をリスクに晒さないための3つの策
◆ パワーハラスメントを許さないという強い決意を示す
◆ 人を大切にすることが企業存続の必要条件であることを自覚させる
◆ 予兆を黙認せず迅速かつ適切に対処する
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社会保険労務士 西田善知(にしだ・よしのり)
(特定社会保険労務士、日本生産性本部賃金管理士)
会社の文化と理論の統合をめざして社長が自ら語れる制度をつくり、社長の代わり に説明します。社員にいつでも読み合わせできる就業規則を作成します。会社が求 める人材になる為には何が必要かを気付かせる、教育研修を行います。 |
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