「副業・兼業の留意点」


社会保険労務士 西田善知 (西田社会保険労務士事務所)

 昨年の「働き方改革関連法」の施行に続き、コロナ感染が影響する中、雇用の在り方が大きな転換期にあります。また、景気の見通しは依然厳しく、企業は不安定な市場環境の中で人材の採用と定着を図らねばならず、労働環境の向上と処遇の改善はますます重要な課題となっています。

 

 近年のそのような状況下、副業・兼業を希望する人が増加し、多様な働き方が推奨されているため、副業・兼業を容認する考え方が浸透しつつあります。他方、長時間労働とそれに伴う健康障害のリスク増大が懸念されており、労働時間管理や健康管理のルールを明確にする必要性から、9 月 1 日に厚生労働省より「副業・兼業に関するガイドライン」改定版が発表されました。

 このガイドラインは、労働時間の通算の方法等が具体的に示されており、監督行政の指針となるものであるため、従業員を雇用する事業所は、副業・兼業を受け入れるか否かに関わらず内容を理解しておく必要があります。今後の採用と定着に決定的な影響を与えるからです。

 

 ガイドラインの重要ポイントは下記の通りです。

  ①労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由である

  ②例外として次の場合に副業・兼業を禁止できる

   ア 労務提供上の支障があること

   イ 業務上の秘密が漏洩する場合

   ウ 競業により自社の利益が害される場合

   エ 自社の名誉や信用を破壊する行為がある場合

  ③就業規則に根拠規定がないと禁止や制限ができない

  ④自らの事業場と副業・兼業先の労働時間は通算しなければならない

 

 ①は裁判例を根拠とした原則であり、希望に応じて認める方向で検討することが求められるとしています。

 ②アは、労働契約法第5条の「安全配慮義務」を根拠として長時間労働により労務提供上の支障が生じないよう配慮しなければならないとしています。

 ②イ~エおよび③についても労働契約法に根拠があります。

 

 特に注意が必要なのは④です。労働基準法第 38 条第 1 項において「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、労働基準法が適用されないフリーランス等を除き、自社のみならず副業・兼業先の労働時間も把握しなければならないからです。

 安全配慮義務を負い、法定時間外労働については割増賃金を支払わなければならない関係上、副業・兼業を認めていながら労働時間の把握を怠ることは許されません。

 労働時間の通算は次の方法で行い、その結果特定された法定時間外労働に対して割増賃金の支払い義務が発生します。

 

 ①双方の所定労働時間の通算により法定労働時間を超える場合

 ⇒通算した所定労働時間を、自らの事業場の労働時間制度にあてはめたときに法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、時間的に後から労働契約を締結した事業場の使用者に対し、自ら時間外労働させた部分に対し割増賃金の支払い義務が発生する

 ②双方で所定外労働が発生した場合

 ⇒所定外労働を発生順に通算し、①と合算して、自らの事業場の労働時間制度にあてはめたときに法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、それぞれの事業場の使用者に対し、自ら時間外労働させた部分に対し割増賃金の支払い義務が発生する

 

 一番単純な例を挙げると、本業での所定労働時間が週 40 時間の場合、後から契約した副業・兼業先の使用者は労働時間すべてに対して割増賃金を負担しなければならないということになります。

 さらに、労働基準法第 36 条第 6 項に定めによる時間外労働の上限規制(時間外労働・休日労働の合計が単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内でなければならない)に関しては、通算した時間で判断されます。

 上記に沿って労働時間管理を行うためには、副業・兼業をする労働者から、事前の届け出をさせ、かつ副業・兼業開始後は都度労働実態を申告させる必要があります。また採用時に兼業・副業をしていることを把握しなかった場合は、後にトラブルとなります。

 先に述べたとおり労働時間以外の私的な時間は本来自由であり、副業・兼業を容認、推奨する動きがありますが、長時間労働による健康への支障や、情報管理面でのリスクが懸念されるうえに、労働時間管理は複雑を極めます。

 以上を考慮した場合、副業・兼業は安易に認めるべきではなく、一定の制限を設けるべきであり、副業・兼業に関連する就業規則の関連規定を整備しておくべきといえます。 


執筆者のご紹介

社会保険労務士 西田善知(にしだ・よしのり) 

(特定社会保険労務士、日本生産性本部賃金管理士)

 

 会社の文化と理論の統合をめざして社長が自ら語れる制度をつくり、社長の代わり

 に説明します。社員にいつでも読み合わせできる就業規則を作成します。会社が求

 める人材になる為には何が必要かを気付かせる、教育研修を行います。

   

  1.人事制度構築、運用指導

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