同一労働同一賃金に関する法律改正が行われ、大企業については 2020 年 4 月 1 日か ら、中小企業についても 2021 年 4 月 1 日から施行され、同一労働同一賃金に関するガイ ドラインも出されているところですが、対応はお済みでしょうか。
まず、法律改正の内容ですが、同一労働同一賃金に関する根拠法令として、もともとは、労働契約法 20 条において、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定されていました。
これが、パート・有期法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8 条という別の法律により規定され、文言も若干変更されることになりました。
ただ、この法律改正は、旧労働契約法 20 条に関する裁判所の解釈を踏まえ、裁判所の判断手法等を取り入れたもので、旧労働契約法 20 条に関する判例はパート・有期 法 8 条の解釈にあたって同一の解釈指針となるもので、基本的な趣旨、枠組みを変え る法律改正ではないと考えられており、おそらく、この流れは変わらないのではない かという見通しが強いです。
次に、ガイドラインですが、ガイドラインは、同一労働同一賃金違反となる具体例が列 挙されているだけでなく、基本給、賞与、手当、待遇に関する指針が記載されており、特に、基本給については注意が必要なので、ここでは基本給に関するガイドラインの読み方 について説明させていただくこととします。
ガイドラインには、「基本給が、労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又 は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格が 様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実際に違いがなけ れば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。」と記載されているため、正規、非正規の基本給を同じにしなければならないと慌てられた経営者もおられることと思います。
しかし、ガイドラインの基本給記載部分は、厳密に読むと、正規・非正規で異なる 基本給制度をとっている場合については言及していないもので、後述する判例と整合的に解釈するため、正社員とも非正規雇用者の賃金規程が、ともに職能給制度である とか、両者が同じ賃金制度であった場合に同水準の支給をすべしという極めて限定的な場面を指していると考えられています。
そして、日本の雇用システムは、多くの会社が正規、非正規で同じ基本給制度をと っているのではなく、正社員は年功序列的な職能給制度、非正規社員は仕事に応じた 職務給制度といったように、異なる賃金制度を使用している場合がほとんどであるため、実情として、このガイドラインの基本給記載部分が当てはまる企業は少ないので はないかというように考えられています。
このように、同一労働同一賃金に関しては、正社員と非正規社員との賃金制度の差異、理由を各社ごとに検討する必要がありますので、ご注意下さい。
同一労働同一賃金に関する裁判所の考え方は、労働契約法旧 20 条の解釈、適用のなかで示されてきたものですが、一例として、ここでは基本給と手当に関する判例を若干紹介したいと思います。
大阪医科薬科大学の判例(最高裁令和 2 年 10 月 23 日判決)は、正社員が職能給で あるのに対し、非正規社員は職務給としての制度であるという違いについて言及し、 正社員と非正規社員の基本給の差異について不合理ではないと判断しており、これは 上記のガイドラインの説明においても言及したとおりです。
次に、住宅手当に関する判例を紹介します。住宅手当の目的は、福利厚生、生活保 障をすることで、長期雇用を予定する労働者の継続的勤務を確保する目的であること が一般的かと思われますが、ハマキョウレックス事件(最高裁平成 30 年 6 月 1 日判決)は、正社員は転居を伴う配置転換が予定されているが、非正規社員には予定され ておらず、正社員は住宅に要する費用が多額となることから不合理な差異ではないと判断しました。
逆に、メトロコマース事件(最高裁令和 2 年 10 月 13 日判決)はそのような事情がなく、住宅手当が正社員だけに支給され、非正規社員が支給されていないことは不合理な差異であると判断しました。
このように、配置転換が予定されない小規模の事業者であれば、ハマキョウレックス事件のような差異の合理的説明はつかないことから、対応にあたって注意が必要で、各社の実情に応じた検討が必要です。
同一労働同一賃金については、法律改正、ガイドライン、判例等、多くの情報が飛び交 っており、上記のとおり制度の正確な理解をしたうえで、各社ごとの実情に応じた検討、 吟味、場合によっては制度の変更が必要になります。
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弁護士 松谷 卓也(まつたに・たくや)
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